墜落的トキシック
教室内の会話、特に侑吏くんたちの会話は聞こうとしなくても鮮明に聞こえてくる。
ひときわ賑やかだから。
「侑吏、明日の夏祭り一緒に行かない?」
北村さんだ。
侑吏くんのことが好きだと、そうはっきりと私に告げた彼女。
そういえば、夏祭りって明日だったっけ……とぼんやり思った。
「夏祭り?」
「そう。たまにはそういう普通のデートもよくない?」
可愛らしく小首を傾げている。
“たまには”って、今まで何回デートしたの。
北村さんにならって、他の女の子たちも口々に侑吏くんに誘いかける。
今日は期末テストの返却日。そして休みを挟んで数日後、終業式が終われば夏休みに入る。
なんとしてでも、休暇中の約束を取りつけたいのだろう。
「あー、無理。全部パス」
侑吏くんが、だるそうに首を横に振った。
その仕草に女の子たちから「えー、なんで」と一斉に声が上がった。
へえ、断っちゃうんだ、なんて他人事のように思う。
さすがに全部は受けないだろうけれど、まさか一つ残らず断るとまでは思っていなかった。
だって、侑吏くん、隙あらば女の子といちゃいちゃしているのに。
「え、私もだめなのっ?」
北村さんが、ショックを受けたように侑吏くんを見つめている。
「あー……」
そんな彼女を侑吏くんはちらっと見て。それから。
「もう俺、誰に誘われても乗らねーから」
「えっ?」
なんで、と音にはならず、彼女の口だけが動く。
「だるいし、めんどくせーんだよ」
冷めた声で言い放った侑吏くん。
北村さんは打ちのめされた顔をしている。