墜落的トキシック
「佐和くん、何かあったの?」
麻美も少し目を見開いて、私に囁いた。
「え……知らない」
たしかに、誰彼構わず相手していた侑吏くんとは思えない言動だけど、思い当たる節はない。
緩く首を横に振ると、「ふうん」と麻美は頷いた。
「琴葉の気持ち考えるとちょっと気の毒だけどねー」
うん、たしかに、と頷いた。
好きな人に拒絶された苦しみはよくわかるから。
「あ、でも、」とふと思い出したように麻美が声を上げる。
「琴葉ってたしか、一年の時は仁科くん狙いじゃなかったっけ」
「そうなの?」
初耳だ。
てっきり、北村さんはずっと侑吏くん一筋なのかと。
「うん、多分。琴葉、佐和くんと仁科くんと同じクラスだったけれど、もっぱら仁科くんに付きまとってたイメージあるなあ。それが急に佐和くんに変わったんだよね」
そうなんだ。
「なあんか、噂では仁科くんにこっぴどく振られたとか言われてたけどねえ」
「こっぴどく……?」
その表現に違和感を覚えて、首を傾げた。
ハルが “こっぴどく” 女の子を振るなんてあり得るだろうか。
ううん、そんなことない。
だってハルは誰にでも優しいもん。
なんて考えていると。
「遠藤さん、こいつ借りていい?」
急に近くで侑吏くんの声がして。
はっ、と顔を上げると、侑吏くんは私たちの席のすぐ近くまで来ていた。
さっきまでハーレム状態だったくせに、いつの間に?