墜落的トキシック
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「侑吏くん侑吏くん」

「うるさい」



面倒そうに顔を上げた侑吏くん。


放課後、教室にて。
今日は、修学旅行のしおりのホッチキス留め作業をしている。


つい先日、しおりの中の原稿が完成したんだよ。
ちなみに表紙のポップなイラストは美術部の子が描いてくれた。


今度のHRでクラスの皆に配るから、今日と明日でホッチキス留めを終えなければならないのだけど。



「今日先に帰ってもいい?」

「は?」

「それと、明日も。大丈夫、作業はちゃんと家で終わらせてくるから!」



きっかり半分に山分けた紙束。
自分の分をちゃんと終わらせれば、場所は学校だろうが家だろうが同じだもんね。


そう思いつつ、ぱちんと顔の前で手を合わせる。



「別にいーけど。……何の用だよ」

「明日誕生日なの。それで今日はケーキの予約しに行きたくて」



ふうん、と頷いた侑吏くん。



「家族の?」

「ううん、ハルの」

「……は?」



声色が数段低くなった。
一呼吸おいて、仁科かよ、という侑吏くんの呟きが聞こえる。



「明日……9月14日?」

「そう」



頷くと。
侑吏くんが目を細める。まるで、何かを思い出しているような仕草だ。


そして。



「スマホ貸せ」

「はい……?」



何の脈絡もない命令にさすがに唖然とする。



「いいから早く」



何このデジャヴ。
前は確か連絡先交換だった。

今度は何?と思いつつ、素直にスマホを手渡している自分がいる。
慣れって本当に怖い。



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