墜落的トキシック

手渡したスマホのスクリーンを侑吏くんが軽く数回タップして。
は、と短く乾いた笑いを零した。



「0914……ね」

「な、なに?」

「パスワード。未練がましくあいつの誕生日にしてるんだ?」




ロックが解除されたスマホの画面をちらつかせて、侑吏くんが言う。


馬鹿にする口調だ。
それでもって、表情が怖い。


……どうして怒っているの。




「悪い?」




むっとしながら、首をかしげると。




「おまえ、やる事成す事全部うぜーんだよ」

「はっ?何その言い方ひどい!」



声を荒げたタイミングでスマホが投げ返されて、慌ててキャッチする。



「っ、ちょっと!」



ひとのスマホを普通ここまで乱雑に扱う?
きっ、と睨みつけると侑吏くんは。




「1218、覚えろよ」

「は……?」

「変えといたから。パスワード」



絶句。
いくら何でも勝手すぎる。



「12月18日」




口ぶり的に、侑吏くんの誕生日ってことだろう。




「……祝えってこと?」



真剣に首を傾げたのに、侑吏くんは何も答えない。

それからすぐに、『もう帰れば?』なんて言って追い出されるし。
ほんと、意味わかんない、何もかも。



麻美に教えてもらったケーキ屋さんに向かう途中、1218、と心の中で繰り返し唱えた。
新しい四桁の番号を忘れないため。




─────スマホのパスワードなんてすぐに戻せる。
だけど私はそうはしなかった。


このときどうしてハルの誕生日に戻さなかったかと問われれば、うまく答えられる自信はない。ただ、何となく、だった。




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