墜落的トキシック
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【SIDE 侑吏】



……こいつ、寝たのか。

隣からすーすー、と規則正しい寝息が聞こえ始めて、呆れるを通り越してもうため息すら出ない。



ほんっと、危機感ねーな。
俺のこと、男として意識してないんだから、当然か。



『好きだっつってんだよ』



告げてすぐに後悔した。
今言うんじゃなかった、失敗したと思った。
馬鹿なことをしたと思った。



……だけど、全部事実だから、引き返せなかった。
告げた言葉をなかったことになんてできない。


あわよくば、こっちを見ろ────振り向くはずもない女に、そう思ったのだ。




「……アホ面してんなよ」




ふにゃりとした警戒心ゼロの寝顔。
惜しげもなく晒す彼女に舌打ちしたくなる。


見ていられなくて目を逸らして、でもすぐに吸い寄せられるように戻ってきてしまう。



目を離した隙に、隣の女は自分の髪の束をくわえてへにゃりと笑っていた。
髪の毛食ってんじゃねーよ、気持ち悪。



なんて、毒づきながらも、起こさないようにそっとその髪束を払ってやっている自分の行動の方が気持ち悪くて。何やってんだ、と思う。




気持ち良さそうに眠る彼女に、心の中で呟いた。
誰の夢見てそんな顔してんだよ。




「……」




ずっと、こいつのこういう無防備な表情が知りたかった。
あいつに─────仁科に向ける安心しきった表情と絶対的な信頼が欲しかった。



だけど、それだけじゃ全然足んねーんだよ。
足りない、全然、満たされない。





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