墜落的トキシック
そして今は侑吏くんと教室に残って、修学旅行の振り返りレポートを書いている最中である。なんでも、来年の実行委員の参考にするために記録を残しておくんだって。
せっせとシャーペンを動かす私。
対する侑吏くんはぼんやりと宙を見つめている。
仕事しろよ、と思いながらその視線の先をたどる、と。
宙じゃなかった。私の口元。
何見てるんだろう、と思ったタイミングで。
「それ、噛み痕だよな」
「え……?」
「上唇」
あ、と指摘された箇所に触れる。
時間とともに、薄くなってもう消えかけているけれど、それは確かに。
修学旅行の夜、ハルが噛みついた、その傷痕だ。
「仁科?」
「……う」
頷くのがはばかられて、言いよどむ。
だけど、その反応はもはや肯定を意味していて。
侑吏くんの眉間にしわが寄るのがはっきりとわかった。
そんな侑吏くんは、何を言い出すかと思えば。
「ほんとやだ」
「え、」
「おまえの思い出とか過去とかそういう大事なもの全部にあいつが染みついてんの、普通に無理なんだけど」
思いのほか、子供っぽい、駄々をこねるみたいな口調。
これって……つまり。
「っ、やきもち?」
「……悪い?」
素直に認めた。
ぐ、と胸を鷲掴みにされたみたいになる。
さっきまではいつもと変わらないと思っていたのに急に。