墜落的トキシック


「誰とも付き合う気はないの?」

「ない」



断言すると、背後の彼女が息をのむ音が聞こえた。



「それって、好きな子がいるから?」

「……」

「久住さんのこと、まだ、好きなの?」




“久住さん”



揺れる。
揺らすことができるのは、彼女だけ。




ぶっ壊れた俺に残された、唯一の感情は孤独だった。ひとってたぶん、無意識に温もりを求める生き物だ。



孤独を感じていることにすら気づかないまま、そのまま冷たい闇に呑まれかかっていた俺に、純粋無垢な温かさを差し出したのが花乃だった。




依存、だったと思う。




彼女が母親────佳子さんを失ってから俺に向けた感情が依存であるなら、俺が花乃に向けた感情も、最初は依存だった。



ひとの温かさというのは心地よいのだ。
離れがたくなる、離しがたくなる。

寒いところにいるのなら、余計にそうだ。




彼女はひたすらに温かかった。
だから、俺は満たされて温められて、そして。



いつしか依存が恋情に変わっていた。
好きだ、と思った。焦げるほど、強く。



欲しいと思った。
花乃のためなら、何も惜しまないと思った。




────と同時に、花乃が俺に一切そういう感情を抱いていないことに気がついた。


花乃が俺から離れようとしなかったのは正義感だとか同情だとか、そういうものに近かったと思う。



好きだから、じゃない。
そういう甘ったるい感情はどこにもない。




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