スパークリング・ハニー
思わず口元を手で覆った。
ぶわっと顔に熱が集まる。相当締まりの悪い顔をしていると思う。瑞沢がこのタイミングで起きたら言い逃れできない。
「ずる……」
瑞沢に下の名前で呼ばれるのは初めてだ。
しかも、寝言で、なんて。
普段、「篠宮くん」って苗字で呼ばれるだけでもかなり嬉しかったりする、のに。これは、ずるすぎる。
きっと起きたあとの瑞沢の記憶には残らないんだろうな、と思うと少し憎い。憎めないけれど。
追いうちをかけるみたいに、瑞沢の口元がへらっと弧を描いた。
「あー……」
どんな夢を見てるの。
そこに俺はいるの。
何度撃ち抜けば、この子は気が済むんだろうか。
『篠宮くんにむにゃむにゃ寝言を聞かせるわけにはいかないので……!』
『変なこと言っちゃうかもしれないし!』
なんて心配そうにしていたくせに、蓋を開けてみればこれだ。
「……瑞沢」
また穏やかに寝息を立てはじめた彼女の柔らかい髪の毛に、すう、と指を通して撫でる。
壊れものを扱うように、そっと一回だけそうして、彼女から手を離す。