夕闇の時計店
学校終わりに制服で時計店を訪れて、それから、こっちの世界で落ちたり転んだりして随分と汚れてしまっていた。

「ついて来い。着替えを用意する」

「はい!」

庭を囲む縁側を歩いて、端の廊下へ。

長い廊下の左右には松や梅などの豪華な刺繍が施された襖がずらりと並ぶ。

広い……貴族のお屋敷?

時計店の、最低限の生活ができる設備と小ぢんまりとした奥座敷とは大違いだ。

「緋瀬さんって、こっちの世界でお偉い方なんですか?」

「代々この辺りを取り仕切る頭領だ。この家は継ぎ物で、俺が凄いわけじゃない」

「と、頭領……!?」

「この世界もいくつか地域が分かれているからな。かといって大きい争い事もないし、やることは特にない。一人でこんな広い家にいても寂しいだけだな」

襖を開けて広間に入る。

「たまに戻っては来るが、店で過ごすほうが落ち着く」

「ん……!?」

広間を横断してさらに襖を開けて次の部屋が露わになる。

視界が色鮮やかに染まる。
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