転生王女のまったりのんびり!?異世界レシピ
「――あなたは、わかっていませんよ。俺が、そのような申し入れを受けられると?」

「そうだな、お前に対して失礼だった。だが、ここでヴィオラを連れて行かせるわけにはいかない。大切な預かりものなのだからな!」

 ヴィオラは声を上げることもできず、胸の前で手を組み合わせ、その光景を見守ることしかできなかった。

 セスが踏み込み、リヒャルトがそれを横に流す。

 すさまじい勢いで振り下ろされたリヒャルトの剣を、セスががっちりと受け取める。力比べになったかと思ったら、双方勢いよくそれぞれ後方にとびのき、また剣を構えたかと思うと刃が交わる。

(……どうし、よう……!)

 声が出ない。怖いのに、目をそらすこともできない。

 ただ、ヴィオラのためにリヒャルトが剣を振るうのを見ていることしかできない。自分は、なんて弱い存在なんだろう。

 一進一退の攻防が続いているように思えた。どちらが強いのかもわからない。

 ただ、どちらも引く気はないということだけは理解できた。

「リヒャルト様、リヒャルト様……」

 ようやく少しずつ、声が出るようになってくる。

 彼には、何度命を救われるんだろう。

 湖に落ちた時も。男達に拉致された時も。そして、今も。

 常にヴィオラの側には彼がいてくれた。

 この世界に生れ落ちてから、初めてヴィオラを包み込んでくれた人。

 誰よりも大切で――そして。

 どうか、どうか、彼が勝ちますように。

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