どこかで夏が、笑っていた
*
「若音(わかね)、準備できた?」
「まだ!待って……」
あの時と変わらない、ふわふわの茶色い髪に、二重の大きな目と平行眉をした彼が、私を急かす。
「遅い!」
ごめんねぇ!と半分叫びながら、慌てて準備をすすめる。
えっと……洋服は、きちんとしてるよね?うん、おっけー。
それから、手紙も大丈夫。くしゃくしゃになってない。安心。昨日、何度も読む練習したもん。
あとは……。
「行こー!」
「うんっ」
1週間前に彼から渡された婚約指輪を指から外し、ぎゅっと握りしめる。箱に丁寧にしまい、カバンに入れる。あとで、2人の前で開けてみせるんだ。
存在を確かめたくて、上からなぞるように触れた。
2人の家を出て、並んで道を歩く。
「お父さんとお母さんに報告するの、すっごく照れる……」
「同じく」
私たちは見つめ合い、笑みを零した。