氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
赤子のために特別な術式を用意した晴明は、描いた五芒星の中心に赤子を寝かしつけて唇に人差し指をあてて術を唱えた。

もちろんその場には氷雨と朔が同席していたが――晴明は様々な術を操るため、正直いって何をしているかよく分からない。

だが赤子の身体が光り始めると、ふたりは息を呑んであまり見ない光景に瞬きも忘れて見入った。


「…ふむ、真名はなさそうだね。名を付ける前に襲われたと見える」


「じゃあ俺と朧が真名を考えてもいいってことだな?」


晴明が切れ長の目をちらりと上げた。

嫌な予感がした氷雨が動きを止めると、晴明は五芒星の光が集束したのを確認して赤子を抱き上げた。


「真名を付ける?私の助言を聞いていなかったようだね」


「いや聞いてたけど、名がないと不便だし、自我が芽生えて自分に名がないと知ったら可哀想だろ」


「朔はどう思っているのかな?私はそなたの指示に従うとしよう」


朔は恐ろしく長くきれいな指で膝をとんとん叩きながら考えていた。

朧はすでに入れ込んでいるし、恐らく氷雨も――

そうなれば妹を超溺愛し、氷雨に超懐いている朔はが反対する余地はない。


「親代わりなのは事実だし、それはいいとしてもいずれ手元から必ず離す。それでもいいのか?」


「ああ。後は晴明がどうにかしてくれるんだろ?」


――またどう対処するかは決めていなかったが、朔たちの傍に置いておくつもりはない。

にっこり微笑んだ晴明は、腕を差し出してきた氷雨に赤子を抱かせて扇子をぱちんと鳴らした。


「さて、今から件の集落へ行くのだね?私も同行するとしよう」


「え…お祖父様がですか?嬉しいですけど…何か引っかかることでも?」


「少し情報を精査しておきたいからね。私の式神を使って亡骸を埋葬しよう」


朔がふんわり笑うと、晴明は優しく頭を撫でて立ち上がった。

赤子の父はどんな妖なのか――

それを探るため、動き出した。
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