氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
如月が、泣いた。

兄姉の中で一番気が強く、強制的に嫁を出された時さえも涙を見せることのなかった如月が――


「自分の時より喜んでます」


「だって私たちの可愛い妹に子が…」


泉が茶化したものの如月は隣に座っていた朧の手を握って離さず、目を真っ赤にして鼻をぐずらせていた。

朔たちは大いに喜んだ。

今までずっと――これからも傍に居て支えてくれるであろう晴明を称えて礼を言い、天満と朧たちが手伝って作った料理を振舞いながら今後の話をした。


「どれどれ、鬼憑きの赤子を見てみよう」


孫たちからあまりにも褒め称えられてさすがに気恥ずかしくなった晴明は、部屋の隅に置かれてあった揺り籠の前に座って望を腕に抱いた。

…もう、角はほとんどない。

それにぐったりしていて食欲もなく、目も開けず反応しなかった。


「力を使い果たしたように見える」


「力?やはり朧に干渉していたんですね」


「そうだよ、朧の愛を我が物にしようと発動したものだろうけれど、この幼い身体では負荷がかかったのだろうね。妖としての力はほぼ失っている」


朔は氷雨と顔を見合わせた。

見た目はほぼ人の赤子だし、そうなれば幽玄町で暮らすのも問題がないように思えて口を開きかけた時――晴明が手を挙げてそれを遮った。


「外に妙な気配があった。実を言えば以前からずっと感じていたのだが、悪意を感じぬ故、結界を通過している。それの対処が終わり次第この赤子の今後を決めようか」


「数日中に泉の修復が終わります。お祖父様、その…」


「いいよ、私も手伝おう。早く終わらせないと、そろそろ短気の鬼が屋敷をほったらかしにしてこちらへ向かって来そうだからね」


その短気の鬼の子たちから笑い声が漏れた。

氷雨は気概に満ちていた。

妻と子を必ず守る――

沸々と淡々と、傍から見ても分かるほど、漲っていた。
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