氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
当日夜――朧を可愛がってやったことですっかりめろめろになって引っ付いて離れなくなってしまい、早速朔にすぐ知られることとなった。

そういう事情を知られるのはさすがに気まずく、なんだか合わせる顔のない氷雨とは対照的に、朧はべったり。


「何が起きたかなんてすぐ分かる」


「いや…あの…すんません」


「別に謝る必要はない。お前たちは夫婦なんだから」


氷雨は腕に抱き着いて離れない朧をほとほとあきれ果てて見下ろした。

朧はこの男は自分のものだと言わんばかりに満足げな笑みを浮かべて見上げ、それを見た天満が吹き出した。


「もう記憶が戻らなくても変わらないんじゃないかな」


「なに言ってんだ!あんな紆余曲折あったことを忘れられるのは困る!いいからもう出ようぜ。俺は朧を最優先に守るけど、主さまはくれぐれも…」


「うるさい。それ以上小言を言うとお前は百鬼を解雇だ」


「理不尽!」


皆で警戒にあたりながら家の外に出た。

望は外見はもう人の子と大差なく、氷雨が触ってももう何の反応もしない。

伊能と合流するため出発したが、朧と如月は用心を期すため朧車に乗せ、天満と氷雨が警戒にあたった。


「ねえ、雪男はあの赤ん坊、どうしたいの?」


「うーん…悪さしないんなら置いてやってもいいんじゃないかと思ってるけど」


「そっか。ま、僕は朔兄と朧の意思に従うよ」


上空では強い風が吹いていた。

時々突風に晒されて前のめりにならなければならないほど強く、氷雨は真っ青な髪を強風にさらされながら後方からも朔を逐一監視していた。


「いい風だけど、嫌な予感がするな」


上昇気流に乗って速度を上げつつ、嫌な予感がしていた。
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