氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
泉を目視で確認できる位置で下りた氷雨たちは、すでに待機していた伊能が駆け寄って来ると、見事に復旧している泉に目を丸くした。
「ご苦労だったな、伊能」
「もったいないお言葉です。亀裂を塞いだ所、すぐ水が戻ってきましたので後は崩れた岩を新しいものに変えたりしたのでそれで時間が」
うん、と相槌を打った朔は、天満が腕に抱いていた望を受け取り、変わってしまった風貌にちらりと朔を見た。
「人の子と大差ないのでは?」
「念には念を、だ。俺たちは父様の言いつけがあるからここから近付くことはできないから、お前に託したぞ」
「望…」
望の執着からほぼ解き放たれていた朧は、それでも心配そうに望を呼んだ。
ぐったりしていて反応はなく、泉に浸してみてこれ以上容態が悪くなったらどうしようと思うとつい一歩踏み出してしまい、氷雨にやんわり腕を掴まれた。
「ここからでも見えるし、何かあっても最速の天満が居るから間に合う。頼むからお前はじっとしていてくれ」
「あの子はこれ以上もう悪さはしません。そうですよね、お祖父様」
「そうだね、今の所は、と言っておこうか」
ついて来ていた晴明は、終始扇子をぱちりぱちりと音を立てて開いたり閉じたりしていた。
それも何かの一種の術らしく、周囲には朔たち以外に妖の存在はなかった。
「では、行って参ります」
伊能の一族は幽玄町に住む唯一の人の一族で、初代の時代より長く仕えてきていて朔たちにとって多大な恩がある。
何かあってはいけないという思いが強く、晴明に身を守るいくつもの札を譲ってもらって持たせていた。
「朔、結界の外側に奴が居るぞ」
――その姿をはじめて目視した。
予想していた通り――その男は鬼で、望の父だった。
「ご苦労だったな、伊能」
「もったいないお言葉です。亀裂を塞いだ所、すぐ水が戻ってきましたので後は崩れた岩を新しいものに変えたりしたのでそれで時間が」
うん、と相槌を打った朔は、天満が腕に抱いていた望を受け取り、変わってしまった風貌にちらりと朔を見た。
「人の子と大差ないのでは?」
「念には念を、だ。俺たちは父様の言いつけがあるからここから近付くことはできないから、お前に託したぞ」
「望…」
望の執着からほぼ解き放たれていた朧は、それでも心配そうに望を呼んだ。
ぐったりしていて反応はなく、泉に浸してみてこれ以上容態が悪くなったらどうしようと思うとつい一歩踏み出してしまい、氷雨にやんわり腕を掴まれた。
「ここからでも見えるし、何かあっても最速の天満が居るから間に合う。頼むからお前はじっとしていてくれ」
「あの子はこれ以上もう悪さはしません。そうですよね、お祖父様」
「そうだね、今の所は、と言っておこうか」
ついて来ていた晴明は、終始扇子をぱちりぱちりと音を立てて開いたり閉じたりしていた。
それも何かの一種の術らしく、周囲には朔たち以外に妖の存在はなかった。
「では、行って参ります」
伊能の一族は幽玄町に住む唯一の人の一族で、初代の時代より長く仕えてきていて朔たちにとって多大な恩がある。
何かあってはいけないという思いが強く、晴明に身を守るいくつもの札を譲ってもらって持たせていた。
「朔、結界の外側に奴が居るぞ」
――その姿をはじめて目視した。
予想していた通り――その男は鬼で、望の父だった。