氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
猫又は氷雨たちを降ろした後庭で一応警戒にあたった。

鍵を使って屋内に入った氷雨は、何度かこの天満の家を訪れたことがあるため、居間に入るなり寝転んで大の字になった。


「あー疲れた。久々に思いきり身体動かせて気持ち良かった」


「お疲れ様でした。私今日がはじめてだったけど…興奮しちゃった」


「おー、さすが鬼頭家の娘さんだな。でも俺はお前が怪我しないか冷や冷やしてたけど」


朧が茶を持ってくると、起き上がった氷雨はそれを一気飲みしてもじもじしている朧をじっと見た。


「なんだよどうした?」


「あ、その…私汗かいちゃって…」


「だから風呂入れって言ってるじゃん。ここの湯はすごくいいって主さまが言ってたぜ」


「え、でも…私………お師匠様!」


「うおっ!な、なんだよ」


「あの!一緒にお風呂入って下さい!」




……唐突にお願いをされて目が真ん丸になった氷雨は、正座して顔を真っ赤にしていている朧の勇気に免じて両頬をむにっと引っ張った。


「あのなあ、俺熱い湯は入れないんだぞ」


「そう思ってさっきお水が出る栓を全開にしてきました!」


「お、おお…それは…一緒に入る気満々だな…」


まだ夫婦になって間もない。

今が一番熱い時でふたりきりになりたい時も沢山あるだろうに、朧はそれについて一言も文句を言ったことはない。

常に朔の傍に居なくてはならない自分を詰ることもなく献身を尽くしてくれる朧の願いだったらなんでも叶えてやりたい氷雨は、ふたりきりになったのをいいことに朧を膝に乗せて羽織を脱がせた。


「い…いいの?」


「そりゃもちろん。あいつらが居ない絶好の機会なんだから、帰ってくるまでは思いきりいちゃつこうぜ」


「!嬉しい!」


氷雨とてふたりきりの時間はもっと欲しい。

そのまま朧を抱き上げて立ち上がった氷雨は、ふたりで同じ鼻歌を唄いながら風呂場に向かい、湯が冷めるまで待った。
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