氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
氷雨と朧を引き離すつもりは毛頭なかった。

だからこそ事前にいつ頃一番下の子が独り立ちするのかを問い、氷雨の意思を問うた。

反対されることは考えていなかった。

何故ならば、氷雨もまた自分と同様に好戦的な性格をしているから。


「私もって…え…?」


「俺の旅にはもちろん俺の妻もついて来る。だけど俺は不穏分子を制裁するため傍から離れることもあるだろうし、だから氷雨やお前が一緒について来て守ったり守られたりしてくれると助かるんだ」


…それって実は氷雨から離れたくないだけでは、と喉から出かかったものの朧はそれをぐっと堪えて熟考した。

確かに氷雨は好き好んで地道な裏方作業をしているわけではなく、本当は毎夜百鬼夜行に出て戦いたいはずだ。

今まで殆ど愚痴も零さず朔の傍で事務的作業をしている氷雨をそろそろ解放してやってもいいのではないかと最近朔と話したことがある。

それに朔は断られることを想定しておらずにこにこしていて、氷雨は苦虫を嚙み潰したような顔をしていたが、これは自分の後押しが必要だと考えた。


「そうですか、じゃあ私もついて行きます」


その鶴の一声で、氷雨も意思を固めて大仰に頷いて見せた。


「ったく俺が居ないと先代は何するか分かんねえからな、仕方ないからついて行ってやるよ」


「いつまでも童扱いするな」


少し頬を膨らませた朔の頭を笑いながらぽんぽんと叩いた氷雨は、氷輪たち我が子が今や鬼頭の家を任せられるほど成長したことで無意識に自分の居場所を探していたような気がしていて、そんな時朔に声をかけられて本当は即答したかったものの、悩んで見せただけ。


「ま、一番下の子が成人するまでまだかかるけど、約束するよ」


「ん。約束を違えるな」


念押しされて苦笑。

氷雨はその日から氷輪たちに自分が持っている全てのものを教え込んだ。
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