氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
朧の予想は当たっていた。

朔たちは他にも反乱分子が燻ぶっていないか時間をかけて調べた後、なるべくゆっくり時間をかけて天満の家に戻った。


「ただいまー。…ただいまってなんか久しぶりに言ったなあ」


少し照れている天満の髪をくしゃくしゃに混ぜた朔は、居間で蜜柑を頬張っているふたりの姿に頬を緩めた。

朧はいかにも幸せそうで甲斐甲斐しく蜜柑の皮を剥いてやっているし、氷雨は剥いてもらった蜜柑を時折朧の口に入れてやったりで、掘り炬燵に入って机に顎を乗せた。


「疲れたな。風呂に入って来ようかな」


「あ、僕も僕もー」


「お湯すっごく熱くしておきましたから入って来て下さい」


朔と天満は顔を見合わせて、きょとんとしている朧にふたり揃ってにたりと笑いかけた。


「道理でさっき風呂場見に行ったら栓の緩みがいつもと違うなって思ってたけど、じゃあふたりはもう入った後なんだね」


「あー、ごめん、先に入った」


「いや、俺たちゆっくり入って来るからお前たちもゆっくりしてていいぞ。あ、酒の用意は忘れずに」


「は、はい…」


ふたりで風呂に入ったことを見破られて恥ずかしくなって縮こまっていると、氷雨は炬燵から出て戸棚を開いてぎっしり収められた酒瓶を見て苦笑。


「主さまめ、俺の知らないとこでちょくちょくここに来てるぽいな。ま、別にいいけど」


「朔兄様は天満兄様をとても気にかけてらっしゃいますからね」


氷雨が炬燵に戻って来ると、すぐさまぴったり隣に張り付いて腕に抱き着いた。


…この男の肌に触れていいのは、自分だけ。

本来ならその息を浴びるだけで凍り付き、死に至ることもある。

だがその肌も息も――とても温かくて、ずっと触れていたいと思ってしまう。


「お師匠様、私も少しお酒を飲んでいいですか?」


「えー?お前酒弱いし、飲むとすぐ寝るしなあ…」


「ねえっ、お願いっ」


せがんでねだっておねだりし続けて散々氷雨を困らせたものの、氷雨も悪い気はせず朧にがくがく身体を揺らされながら悩むふりをし続けた。
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