氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
数時間後目を覚ました朧は、隣で真ん丸になって寝ている氷雨の透明な美貌を見て一気に覚醒して、白いまつ毛をちょいちょいと突いた。


「わあ…お師匠様だ…」


「当然だろ…。もお…お前のせいで洗いざらい喋らされた俺の心をどうしてくれるんだ…」


「え?」


何も覚えていない朧がきょとんとすると、氷雨は朧の頭を胸に押し付けてため息をついた。


「何でもない。お前せっかく天満と話せる機会だったのに、酒飲んで寝るとかもったいないことしたな」


「あ…そうでした…。どうしよう、もっとお話したかったのに…」


ふたりで布団の中でくずくずやっていると、先に起きていた天満が客間にひょこっと顔を出して起きているふたりを見て手招きした。


「朔兄がもう帰らないと百鬼夜行に間に合わないって言ってたけど」


「それはまずいな。朧、お前早く支度…」


「いや、お前たちは遅れて帰って来い」


天満の肩に手を置いたのは朔で、氷雨と朧が起き上がるとふたりは部屋に入って来て傍に座った。


「主さま…どういうことだ?」


「さっきは予期せぬ出来事が起きたから朧は天満と話せてないだろう?だからもうちょっとゆっくりして帰って来いと言っている。天満、頼んだぞ」


「はい、任されました」


ぱあっと顔が輝いた朧の頭を撫でた天満は、庭に出て尻尾を振る猫又の身体を撫でてやっている朔に頬を緩めた。


「ということで、もうちょっとゆっくりしてく?僕はいくらでも時間があるからいいよ」


「!そうしたいですっ」


「じゃあお言葉に甘えて、ちょっと遅れて戻るよ」


軽く頷いた朔に感謝した氷雨も庭に出て煌々と輝く太陽を見上げて目を細めた。


「もう主さまは俺のお守りが必要ないかな」


「…そうでもない。……にやにやするな。殺すぞ」


朔に怒られた氷雨は、それでもまだ必要としてくれている朔の言葉ににやついて、さらに怒られた。
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