氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
小競り合いの末勝ったのはなんと泉の方で、約束通り氷雨を守るようにして隣に立つと、むすくれ顔の如月を差し置いて屋敷の案内を始めた。


「長居してくれると嬉しいんだけど、駄目なの?」


「うーん、主さまからは朧の気が済むまで…って言われてるんだけど…」


「そっかあ、じゃあここに居る間は我が家だと思ってどの部屋で寛いでもいいからね」


ぽやっとした泉の気性は朔の兄弟たちの中で言えば天満により近く、初対面であるにも関わらず一気に打ち解けた氷雨は、泉に案内されるがままに広い部屋を見て回っていた。


「うおっ!?ちょ、やめて…」


「相変わらずいやらしい身体つきをしているな」


背後からいきなり如月に腰を撫でられて飛び退った氷雨が涙目になると、さすがに朧が一言。


「如月姉様、私の旦那様に許可なく勝手にお触りは禁止ですからっ」


「ふむ、では次から許可を取ろう」


「いや、許可なんて出さねえからな!」


けらけら笑った如月が、この屋敷で元気にしていることに対して氷雨は内心ほっとしていた。

追い出されるようにしてこの地に嫁いだため、最初のうちは息吹や十六夜が何通も文を送れど返事はなく、息吹はとても気を病んで床に臥せったことがある。

代わりに泉が如月がどう暮らしているかをこっそり文に書いて教えてくれるようになり、如月宛ではなく泉宛てに文を書くことで、泉の口から息吹たちの心境が伝えられて、徐々にわだかまりが解けて行った。

実はこの泉という男…ぽやっとしているだけではなくすごい男なのだとずっと感心していた。


「如月のことを如ちゃん、なんて呼べるのって息吹と泉だけだぜ」


「そう?人前で呼ぶと怒られるんだけど、怒ってる顔も可愛いから呼ぶようにしてるんだ」


ふたりでこそこそ話しながら肩越しに振り返ると、如月と朧は手を繋いで楽しそうにしていて、男同士と女同士で盛り上がってあちこち散策した。
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