氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
雪男、雪女といった種族においての美しさは、その発色の良し悪しで分かる。

髪と目の色が青ければ青いほど美しいとされ、肌の色が白ければ白いほど美しいとされていて、その両方を兼ね備えた氷雨は、生まれ落ちたその時からこの子は強くて美しくなると言われていた。

その目で見つめられるだけでどれほど矜持の高い雪女でも一瞬で陥落し、その手で触れられるだけで溶けてしまいそうなほど昂ってしまうと言わしめたこの男は、まだ成人してもいない娘を嫁に娶った。

そうされたことで――ようやく踏ん切りがついたのは、事実だ。


「貴様が母がまだ幼い頃に目をつけて狙い続け、駄目だと分かれば次はまた幼い私の妹に目をつけて手を出したというわけか」


「俺がお稚児趣味みたいに言うな!息吹は成長してから惚れたんだし、朧だって成長してか…ら……お…朧さん…?」


息吹の話になるとどうしても頬が膨らんでしまう朧は、酒宴の席で怒りのままに酒瓶に手を伸ばして慌てて氷雨に止められた。


「お前はこっち!あと今の話は全部過去だから!」


鬼陸奥で飲んだ人向けの酒を持参してきていた氷雨が徳利を渡すと、朧は目が据わったまま無言でその酒を飲んだ。

朧の機嫌を取ろうとあたふたしている氷雨があまりにも面白くて吹き出した如月は、隣の泉と笑い合うと、ひらひら手を振った。


「私たちの母があの父をどっぷり陥落させるほど可愛いのは事実だ。残念だが私たちの顔立ちは父に似て可愛いというより美しい、だからな」


「自分で言うな!」


「うん、如ちゃんも朧ちゃんもほんと可愛くてお酒が進んじゃうよ」


「泉、お前は胃腸が弱いんだから飲みすぎ注意だぞ。だが今日だけは見逃してやる」


「やったあ」


…口調は荒いが意外と甲斐甲斐しい。

にやついた氷雨に空の徳利を投げつけた如月は、再度朧に進言。


「私たちは父似だが雪男はお前を選んだ。父とは犬猿の仲の雪男がだぞ。朧、お前はもっと自信を持って誇りなさい。その万年女たらしだった男を射止めたということを」


「お、おい…」


「はい!しっかり手綱を握っておきます!」


…恐ろしい女ふたりの会話に縮こまって酒が喉を通らなかった氷雨だった。

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