氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
その一件があってすぐ、如月は家を出された。

鬼頭家に生まれた初の女の子は蝶よ花よと育てられたが――持って生まれた気性はとても激しく荒々しく、手のつけられない男勝りの女の子だった。

十六夜は内心とても複雑だっただろう。

如月が産まれた時…感動して泣きそうな顔をしてその腕に抱いていた時の表情を氷雨は今も覚えていた。


「正直言ってね、僕が女の子だったらやっぱり雪男くんに懸想しちゃうと思うんだ」


「お…おう…?」


「思春期の女の子の傍にこんないい男が居たら避けられようがないよ。如ちゃんのせいでもないし、雪男くんのせいでもない。でもはははっ、夜這いとか如ちゃんは本当にもう…」


泉は肩を竦めて呆れつつも、全く怒ってはいなかった。

眉が下がっていて目元は穏やかで、今まで怒ったことがないのではと思わせるほど優しげな微笑を浮かべた泉は、眉間に皺を寄せて苦しそうにしている氷雨の盃に酒を注ぎながらからから笑った。


「もう勘当は解けたんだよね?じゃあ如ちゃんは大手を振って幽玄町に帰れるのかな?僕もまた行ってみたいなあ」


「是非是非。主さまもきっとすごく喜ぶ」


かちんと盃を合わせて互いに酒を飲み干した後――氷雨はちらちら泉を見て訊こうか悩んでいた問いを口にした。


「あのさ、お前たちって夫婦になってもう長いだろ?その…」


「ああ、子はまだかってこと?」


「繊細な話だと思うけどちょっと気になってさ、ごめん」


如月が嫁いでもう随分経つ。

真っ青な目で上目遣いに見つめてくるその色の美しさに、泉はこれは女だったら参ってしまうだろうなと苦笑しつつ、盃を置いた。


「僕の方こそ謝らないと。如ちゃんのせいじゃないんだ。僕のせいなんだ…ごめん」


氷雨も盃を置いた。

きっと今しか聞けない話だろうと思ったから。
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