氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
夕暮れが近付くとどうしてもそわそわしてしまう氷雨は、幽玄町の屋敷程ではないがそこそこ広い庭に下りて庭石に腰かけて暮れてきた空を見上げた。
「主さま、ちゃんとやってるかな…」
朔はしっかり者だから、心配しなくてもちゃんとやっているだろう。
側近の銀は朔を溺愛しているため甲斐甲斐しく世話をしているだろうし、先代の十六夜や息吹だって屋敷を守るため常駐してくれているはず。
それでも心配してしまうのは、自分の持って生まれた気質のせいだ。
「つい色々心配したり世話しちまうんだよな。主さまは俺が居なくて伸び伸びしてんのかも」
「そんなことないですよ」
なんとなく寂しそうにしていた氷雨を見かけた朧が庭に下りて氷雨の前に立った。
風呂に入ってまだ髪が濡れているままで、それを見た氷雨は手拭いで髪を拭いてやりながらはははと笑った。
「こうやってちょっと離れて息抜きするのもいいけど、なんか寂しい気もするんだ」
「朔兄様もそう思ってるかもしれないですけど、でも氷雨さんが居ないと我が儘を言えないだろうから同じように寂しがってるかもしれないですね」
目を伏せた氷雨の長くて白いまつ毛が美しくて、甘えたくなって氷雨の膝に腰かけた朧は、肩に手を添えて赤く染まった空を見上げた。
「氷雨さんも本当は百鬼夜行に出たいの?」
「俺?そうだなあ、元々戦うのが好きだから連れてってもらえると嬉しいけど、屋敷を守るのが俺の役目だから。それより…」
朧の頬をむにっと引っ張った氷雨は、もう片方の手でまた髪を拭いてやりながら白い歯を見せて笑った。
「俺の真名呼ぶの言い慣れたか?」
「う、ううん…新婚旅行が終わったらやっぱりお師匠様って呼ばせて下さい。でないとなんか緊張しちゃって…」
「はははっ、まあどっちでもいいよ。おっ、流れ星だ」
「えっ、どこどこ?」
ふたりで降り注ぐ流星群を見上げて目を輝かせた。
その儚い一瞬の光に目を奪われながら、寄り添い合って至福の時を過ごした。
「主さま、ちゃんとやってるかな…」
朔はしっかり者だから、心配しなくてもちゃんとやっているだろう。
側近の銀は朔を溺愛しているため甲斐甲斐しく世話をしているだろうし、先代の十六夜や息吹だって屋敷を守るため常駐してくれているはず。
それでも心配してしまうのは、自分の持って生まれた気質のせいだ。
「つい色々心配したり世話しちまうんだよな。主さまは俺が居なくて伸び伸びしてんのかも」
「そんなことないですよ」
なんとなく寂しそうにしていた氷雨を見かけた朧が庭に下りて氷雨の前に立った。
風呂に入ってまだ髪が濡れているままで、それを見た氷雨は手拭いで髪を拭いてやりながらはははと笑った。
「こうやってちょっと離れて息抜きするのもいいけど、なんか寂しい気もするんだ」
「朔兄様もそう思ってるかもしれないですけど、でも氷雨さんが居ないと我が儘を言えないだろうから同じように寂しがってるかもしれないですね」
目を伏せた氷雨の長くて白いまつ毛が美しくて、甘えたくなって氷雨の膝に腰かけた朧は、肩に手を添えて赤く染まった空を見上げた。
「氷雨さんも本当は百鬼夜行に出たいの?」
「俺?そうだなあ、元々戦うのが好きだから連れてってもらえると嬉しいけど、屋敷を守るのが俺の役目だから。それより…」
朧の頬をむにっと引っ張った氷雨は、もう片方の手でまた髪を拭いてやりながら白い歯を見せて笑った。
「俺の真名呼ぶの言い慣れたか?」
「う、ううん…新婚旅行が終わったらやっぱりお師匠様って呼ばせて下さい。でないとなんか緊張しちゃって…」
「はははっ、まあどっちでもいいよ。おっ、流れ星だ」
「えっ、どこどこ?」
ふたりで降り注ぐ流星群を見上げて目を輝かせた。
その儚い一瞬の光に目を奪われながら、寄り添い合って至福の時を過ごした。