氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
潮騒の響きは、とても心の落ち着く音だった。
優しい音が近付いては遠のいて――その繰り返しに背中から抱きしめてくれている氷雨に身体を預けながら目を閉じていた。
「夏だと海ん中に入って泳いだりもできるんだけど、まだ早いもんな。俺はちょうどいいけど」
「泳ぐんですか?気持ちよさそう」
氷雨は後ろ抱っこをするのが好きで、朧の身体に腕を回して朝日が昇った空を目を細めて見上げた。
「実はさ、晴明に文を書いたんだ。あいつらんとこ子が居ないだろ?晴明に頼れば何か解決の糸口が見つかるかもって」
「!如月姉様も気にしてました」
氷雨は経緯を話し、泉の体調が快方に向かえば子が望めるかもしれないと打ち明けると、朧は横向きに座り直して氷雨の端正な美貌を見上げた。
「お祖父様からのお返事が速く来るといいですね。それに…私も早く赤ちゃん欲しいな」
朧は半妖だが鬼族の血が濃いため身体は早熟で、すでに子が産める状態だ。
ただ種族が違うためもしかしたら子が出来にくいかもしれないという一抹の不安もあってか、朧はしきりにそれを気にしていた。
「気負いすぎると良くないって聞いたぜ。お前すごく若いんだし、若い嫁さん貰ったからには俺も頑張るからさ」
「はい。ふふ、母様じゃないけど氷雨さんに似た男の子ならかっこいいし、女の子なら…」
「嫁なんかに出すもんか。相手の男に俺を倒してから行け!って啖呵切ってやる」
氷雨の胸元から覗く鍛えられた胸に頬を寄せてその温もりを奇跡だと今更ながらに思いながら視界が滲みそうになった。
「小さな頃から母様から氷雨さんの肌には絶対直接触っちゃいけないってずっと言われてきたけど…こんな日が来るなんて、私今でも信じられないんです」
「俺も同じ。でもまさかなあ…息吹の腹に居た時から知ってる娘を嫁に貰うなんてな…いやいや、お稚児趣味じゃないぞ!いい女に育ったから嫁に貰ったってだけで!」
「褒められた!」
氷雨が砂浜にばたんと垂れ込むと、朧はその身体の上に乗っかって真っ白な頬を撫でた。
なんでもない日なんてない。
好きな男と一緒に過ごす日々は、毎日が奇跡の連続。
優しい音が近付いては遠のいて――その繰り返しに背中から抱きしめてくれている氷雨に身体を預けながら目を閉じていた。
「夏だと海ん中に入って泳いだりもできるんだけど、まだ早いもんな。俺はちょうどいいけど」
「泳ぐんですか?気持ちよさそう」
氷雨は後ろ抱っこをするのが好きで、朧の身体に腕を回して朝日が昇った空を目を細めて見上げた。
「実はさ、晴明に文を書いたんだ。あいつらんとこ子が居ないだろ?晴明に頼れば何か解決の糸口が見つかるかもって」
「!如月姉様も気にしてました」
氷雨は経緯を話し、泉の体調が快方に向かえば子が望めるかもしれないと打ち明けると、朧は横向きに座り直して氷雨の端正な美貌を見上げた。
「お祖父様からのお返事が速く来るといいですね。それに…私も早く赤ちゃん欲しいな」
朧は半妖だが鬼族の血が濃いため身体は早熟で、すでに子が産める状態だ。
ただ種族が違うためもしかしたら子が出来にくいかもしれないという一抹の不安もあってか、朧はしきりにそれを気にしていた。
「気負いすぎると良くないって聞いたぜ。お前すごく若いんだし、若い嫁さん貰ったからには俺も頑張るからさ」
「はい。ふふ、母様じゃないけど氷雨さんに似た男の子ならかっこいいし、女の子なら…」
「嫁なんかに出すもんか。相手の男に俺を倒してから行け!って啖呵切ってやる」
氷雨の胸元から覗く鍛えられた胸に頬を寄せてその温もりを奇跡だと今更ながらに思いながら視界が滲みそうになった。
「小さな頃から母様から氷雨さんの肌には絶対直接触っちゃいけないってずっと言われてきたけど…こんな日が来るなんて、私今でも信じられないんです」
「俺も同じ。でもまさかなあ…息吹の腹に居た時から知ってる娘を嫁に貰うなんてな…いやいや、お稚児趣味じゃないぞ!いい女に育ったから嫁に貰ったってだけで!」
「褒められた!」
氷雨が砂浜にばたんと垂れ込むと、朧はその身体の上に乗っかって真っ白な頬を撫でた。
なんでもない日なんてない。
好きな男と一緒に過ごす日々は、毎日が奇跡の連続。