氷雨逆巻く天つ風の夜に【完】
まずは件の泉を診ることになり、朧と如月は別の部屋で待機することとなった。

興味津々の氷雨はなんやかんや言い訳をして部屋に居座る許可を貰い、隅の方に座ってふたりを見ていた。


「それで、夫婦の営みはちゃんとしているのだね?」


「ええと…はい、それはちゃんと」


「ふむ…胸の音は正常…腹は少々異音がする。胃腸が悪いようだね」


「時々胃痛がして起き上がれない時があるんです。昔から五臓六腑が弱い家系らしくて」


泉をほぼほぼ全裸にさせてあちこち筒のようなものや手で泉の身体を叩いたり触っていた晴明は、持参した薬箱を開けて眺めながら切れ長の目をさらに細めた。


「子種がないわけではないのだから、和温療法から始めよう。まずは全身の血の巡りをよくして、私が滞在している間は毎日鍼を打ち、様々な薬を飲んでもらうが、覚悟は?」


「覚悟はしてます。如ちゃんは口には出さないけど、子が欲しいんです。僕が叶えてあげないと。幸せにしてあげないと」


腕まくりをした晴明は、こくんと頷いて何本もの鍼を取り出した。

そしてくるりと身体の向きを変えて氷雨を見据えてにっこり。


「さて、ついでだからそなたも診てあげよう。さあ来なさい」


「え、いやあ、俺は…」


「いやなに、すぐ済むとも。そなたも朧との子が欲しいのだろう?…欲しくないのか?」


いつも穏やかな晴明の目が金色に光ると、身震いした氷雨は冷や汗をかきつつ膝をついたまま晴明の前まで進んで頭を下げた。


「欲しいです。俺に子種がなかったら離縁されちまう」


「ふふふ、朧はそんな薄情な娘ではないよ。そなたを全身全霊でもって愛しているとも。見ればすぐに分かる。さあ、脱ぎなさい」


そして手際よく泉の全身に鍼を打ち、潔く脱いだ氷雨の全身をわざとらしくじろじろ見てにやり。


「ふむ、ふむふむふむ」


「おいこら、早く診るなら診ろ!結果は絶対教えろよ!」


「もちろんだとも。十六夜にもすぐ知らせるとしよう」


「なんで!?」


苛められ体質の氷雨は晴明にとっても格好の餌食。

ひそりと笑って氷雨の診療を始めた。
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