秀才男子は恋が苦手。
「ほんとはお金かかるし大学なんて行く気なかったんだけどねー」
そんな俺をよそに、衛藤亜衣はシャーペンをカチカチ鳴らしながらノートを広げ直す。
「お母さんに、どうしても大学行ってくれ!って泣きつかれちゃって。だから奨学金借りて、できるだけ学費の安い大学に行こうと思ってさ!」
…なるほどな。それで最近、急に勉強し出したというわけか。
「俺に頼んできたのは」
「私バカだから独学に限界感じてさ!クラスで一番頭良いつつるんに頼もっ!って思いついたんだよね!」
まぁフラれちゃったけどねー、と冗談ぽく眉を下げて衛藤亜衣が笑う。
「くっそー、名案だと思ったのに!」
「………」
“うるさい黙れ”
今更ながら、俺が彼女に投げつけた言葉が頭の中でリフレインする。
…別に俺はお人好しというわけではない。面倒見がいいわけでもない。
俺だって受験を控えているわけだし。
それなのに。
「……名案だ」
気付いたら俺は、衛藤亜衣の正面の椅子に腰掛けていた。