秀才男子は恋が苦手。
「…というか、お前は何でこんな時間にこんなところにいるんだよ」
額を押さえながら聞くと、
「もちろん勉強だよ!」
と朗らかな笑みが返ってきた。
「家ですればいいだろう」
こんな時間に女子が外で一人なんて、あまり褒められたことではないと思うが。
「だってうちじゃ出来ないんだもん」
「は?」
「私、年の離れた弟と妹がいるんだけど、家が狭くて一緒の部屋なんだ。
私が勉強してたら弟たちが眠れないでしょ?」
「…だったら別に、こんな夜遅くまで勉強しなくても。学校の図書室とかに残って勉強していけば…」
「あー無理!私いつも放課後はバイトしてるから」
ニカッと笑う衛藤亜衣は上下紺色のジャージ姿。
「バイト終わってから家帰って夕飯作って、お母さん帰ってくるの待ってたらどうしてもこの時間になっちゃうんだよねぇ」
「親も帰りが遅いのか?」
「まぁねー。うちお父さんいなくて、お母さんが一人で稼いでくれてるからさ!」
ニコ、と笑う衛藤亜衣はとてもそんな苦労を背負いこんでいるようには見えない。
意外な衛藤亜衣の実態を知って俺は狼狽えていた。