悲しみの理由を忘れた少女
〜逃げる私を追うのは〜

『ずっと、一人で。

誰もいない時にああやって、泣いてたの?

何年もああやって。

一人で全部抱えて。』

私は溢れてくる色んな感情を夢中に押さえて、はやくはやくと道を歩いた。

「待てよ。」

私は、その優しい声が誰なのか分かってる。

ちゃんと聞こえてる。

「待てって。」

でも、感情が溢れるのまだ止まってないの。
だから、追いかけないで、話しかけないで。

「待てってば。」

息を荒げる西条くんは、私にはどうしてかぼやけて見えた。

「城咲、泣いて、る。」

手を捕まえられて

その拍子に振り向く私を見て彼はそう言った。

「泣いてない。」

少し荒げた声に彼は少しだけ目を見開いた。

だけれど西条くんは私の手をしっかり捕らえ離さない。

ジッと私を見つめる彼。

そしてふにゃっと笑ってこう言った。

「ちょっと来て。」

私は手を引かれ少し暗くなる中を歩いた。
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