君と僕のキセキ

29.夢をくれた人


 私が時光先輩と出会ったのは、今年の夏休みだった。

 部活にも入っていない私は、長期休暇中はすることがなかった。



 これといって熱中するほどの趣味もない。勉強しようとも思ったけど、やる気が出ない。来年になれば受験生で、どうせ追いつめられる。今のうちに、何かしておくべきことはないだろうか。



 そんな考えから、社会勉強のためにバイトを始めてみようと思った。

 高校生ができそうなバイトといえば、コンビニと飲食店くらいしか思いつかなかった。



 家と学校のちょうど真ん中あたりにあるコンビニで、スタッフを募集していたので応募してみる。普段は控えめで引っ込み思案だけれど、こういうときの私は、案外決断力がある。



 翌日に店長と面接をした。あっさりと採用が決まり、そのコンビニで働くことになった。



 簡単そうだと思っていたけれど、コンビニ店員にはたくさんのことが求められる。レジでのコーヒーやドーナツの販売だけでなく、振込や配送、チケットの申し込みなど、様々なサービスがあるのだ。



 そのほとんどを、私は時光先輩から教わった。シフトの関係で、私の教育係的な役割を任されたのが先輩だったのだ。

 この時はまだ、優しいとか大人しいとか、そんな印象しか抱いていなかった。



 先輩に対する気持ちに決定的な変化が生じたのは、私がアルバイトを始めてから、一週間が経った頃だった。



 私の入っていたレジカウンターで、中年の客がタバコの銘柄だけを告げた。同時に、カウンターに小銭を叩きつける。その動作からは、苛立ちが感じられた。



 普段は番号で判断しているため、当然タバコなんて吸ったこともない私には、その銘柄がどこにあるかさっぱりわからなかった。
< 153 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop