剛力家の三兄弟

そして、禎憲はカフェのマスター傍ら、見事司法試験に合格し、1年間の研修を受ける事になった。

「司法修習生か…懐かしいねぇ?」

「そっか明憲さんも研修受けたんですよね?」

「ああ。憲剛は司法試験すら、受けなかったけどね?」と明憲は言う。

「どうして憲剛さん、検察官になろうとは思わなかったんですかね?
お母様と同じ、検事になれば良かったのに?」

「憲剛は堅苦しいのは苦手だったからね?
子供の頃から、ネズミを追いかける、やんちゃなネコタイプだったよ!」
と明憲が話す。

そう言えば、前にそんなこと言ってたっけ?

それから月日は経ち、やっと、禎憲の司法修習が終わりを迎える。

今日は法子の誕生日で、勤務の憲剛を除いた皆んなで、お祝いをした後リビングでお茶を飲んで寛いでいた。

「で、どうするか決めたのか?」
明憲の問いかけに、禎憲は首を振る。

司法修習を修了した人は、いわゆる法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)のいずれかの進路に進む事になるのだが、禎憲はまだ決めかねていた。

「まだ決めてないけど、裁判官から声はかかってる」

「さすが、禎憲だな!」

裁判官は真面目で優秀な成績を収めた人に声がかかるそうで、禎憲は司法試験の成績はもちろん、修習中の試験も優秀だったとかで、教官からの推薦状も貰えるとの事だ。

禎憲さってホント凄いんだ・・?

最も難易度が高いと言われる司法試験に合格し、その中でも頭脳、人格に優れている人が選ばれると言われる、裁判官に禎憲さんが選ばれたと言うことは、何も知らない私でも、禎憲さんが凄いことは分かる。ましてや、カフェのマスターとしても、手を抜く事も、休む事もしなかったのだ。

「じゃ、お父様と同じ裁判官ですね?」

「どうしよっかなぁ?」

禎憲はソファーに背を預け、まるでステーキとすき焼き、それからしゃぶじゃぶの、どの肉料理にするかを選ぶかの様に、返事をした。

「え?だって裁判官になる事って大変なんでしょ?なら!」

「う〜ん、でもなぁ・・・」

「じゃ、お母様と同じ検事?」

何をそんなに悩んでるんだろう?
初めこそ、自分は弱い人間だから、法曹界には携わらないと言ってたけど、司法試験を受けると決めた時点で、覚悟決めたんだと思ってたけど・・やっぱり、法曹界に携わる事迷ってるのかな?

「検事・・それもなぁ・・・」

「ねぇ・・?
もしかして、後悔してる?
結婚決めなかったら、法曹界へ入る事も無かった・・?」

「ちっ違うわ!
俺が、真奈美との結婚、後悔するわけ無いだろ!
俺が迷ってるのは・・・」

「迷ってるのは?」

「よし決めた!
俺、弁護士になる!」

「え?」
弁護士?

「明憲、俺、暫くお前の下で働くわ!」

「えっちょ、ちょっと待って!
判事と検事で、迷ってたんじゃ無いの?」

「違うよ!
迷ってたのは、単身赴任に耐えられるかって事!」

「単身赴任?」

「判事も検事も、配属先は何処になるか分からない。北は北海道から、南は沖縄。
かと言って、真奈美を連れて行く事は、絶対お袋が反対するだろうし、だったら、転勤の無い弁護士だろ?」

「えっ!そんな理由なの?」

「そこが1番だろ!
真奈美は、俺と何年も離れて暮らせるのか?」

「それは・・・」

「と、言う事で、俺決めたから!
親父もお袋も、文句ないよな?」

隆守も法子も、初めから分かっていたと、笑っている。

「えー良いんですか? 代々剛力家は・・・」

「別に、判事や検事じゃなくても良いんだよ?
弁護士だろうと、刑事だろうと、自分に恥じなければ!」と、隆守は話した。

自分に恥じなければ・・か・・・





おわり
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