剛力家の三兄弟

だが行かなければ、まだ何も終わらないと思った真奈美は、呼び出されたカフェへ、約束の10分前に到着したが、もう既にユリは待っていた。

えっ!
もう?

心の準備の出来ないまま、ユリの座る席まで向かった。

「遅くなってすみません…」

「ううん。心の準備したくて、時間より早く来たのは私だから…」

ユリさんも…?

「あの…お話とは?」

真奈美の問いかけを聞いて、ユリは自分のバックからハサミを出した。

えっ!
ハサミ!?
ちょっと何をする気?

「ユリさん!」
恐ろしくなった真奈美は身を構えていた。
ユリはそのハサミで、自分の腕にある革製のミサンガを切ったのだ。

それって禎憲とお揃いの…

「ごめんなさいね?
どうしても、あなたの見てる前で、自分の気持ちに踏ん切りをつけたかったの…
あなたにとって、迷惑な話だと思うけど、私が前に進むために、どうしてもあなたに見て欲しかった」

「ユリさん…本当に好きだったんですね?」

「うん。好きだった…今でも好き。
あなた達がデートしてると知った時、気が狂いそうだった。
ネズミランドで、年パスの写真をあなたと二人で撮りたいと言ってる禎憲さんの楽しそうな顔も、私見たことなくて…
ホント悔しかった!」

え?
あの時の、恐怖を感じる突き刺さる視線って、やっぱり気のせいじゃなくて、私は向けたユリさんの視線だったの?

「でも、あの人の心は何をやっても手に入らなかった。
私の色仕掛けを使っても…」

「え?」

「真奈美さん気になってたでしょ?
あんな事言ってても!
禎憲さんが私と浮気したんじゃないかって?
残念ながら、心も体も、禎憲さんは浮気してないわ!」

良かった…

「でも、どうして私に話してくれたんですか?」

「全て終わりにしたかったから、そして次に進みたかったからよ?」

次に?

「私ね?
今、気になってる人がいるの!
行きつけの美容室の店長さんなんだけど、凄くイケメンで、優しい人なのよ?
彼に告白する前に、心も綺麗にしときたくて!」

ああ、そういう事ですか?
でも、大丈夫?

前に付き合ってはいけない職種、3B (美容師、バーテンダー、バンドマン)って週刊誌の記事読んだ事あるけど?
嫉妬深いユリさんが、イケメン美容師と上手く行くだろうか?

「あースッキリした。じゃ、お幸せにね!」

「ユリさんもお幸せに!」

ユリはスッキリした顔をして帰って行った。




< 139 / 142 >

この作品をシェア

pagetop