剛力家の三兄弟

翌日からも、度々予測外の事が起きた。
炊飯器にセットしてあった洗米済みのお米が無くなっていて、ランチにご飯が出せなく、急遽、ランチをパスタに変更したりと、毎日の様に被害が出ていた。

今日は、仕入れたばかりのコーヒー豆が全て無くなっていた。

「もぅ、我慢できない!!
真奈美さん嫌がらせするの、やめて貰えます!?」

「エミちゃん、はっきりした証拠も無いのに、そんな言い方良く無いわ?」

「でも、ユリさんどうするんですか?コーヒー出せないですよ?」

「そうねぇ。コーヒーが出せないのは、困るわねぇ。
マスター、どうします?」

「ん…取り敢えず、近くの知り合いの店で、今日の分は借りてくるよ?」

禎憲はそういうと、慌てて店を出て行った。

「エミちゃん…私、本当に知らないの。信じて?」

「じゃ、誰がこんな嫌がらせするんですか!?
真奈美さん一人暮らしですよね?」

「え?」

エミとユリには、真奈美が剛力家に世話になってる事は秘密にしていた。ただ、初めて真奈美が来た日に、憲剛に連れられて来たのを、エミが見ていたので、憲剛の知り合いという事にしていたのだ。

「生活に困って盗んだんじゃないですか?
憲剛さんの知り合いって、言ってたけど、昔窃盗とかで、憲剛さんに捕まったんじゃ無いですか⁈
じゃなきゃ、憲剛さんの知り合いが、働くっておかしいですよ⁉︎
それに、私もユリさんも実家暮らしで、生活には困ってないから、私達は盗む必要ないんですからね!」

「私も…」

真奈美も、生活に困って無いと言いたかったが、実際生活に困って、剛力家にお世話になっている。寝床も食べる事も、今は困ってはいないが、他人の家にお世話になっているのは確かだ。

「もう、お店やめて貰えます!?
明憲さんにも迷惑かける前に、事務所もやめて下さい!
いま直ぐ、店出て行って下さい!」
エミのあまりの剣幕に、真奈美は腰が引けてしまった。

「そんな…」

「泥棒が働いてる弁護士事務所って噂になったら、明憲さんにどれだけの、迷惑が掛かるか分かります?
弁護士事務所は、信用が1番なんですよ!?」

「・・・・」

真奈美は何も言い返せなかった。
店の物を盗んで無いのは、自分が一番良く知ってる。
だが、信用問題だと言われると、何も言い返せなかった。

「ごめんなさい…」

真奈美は、謝罪の言葉だけ残して、店を後にした。

なんで・・・こんなに悲しいんだろう・・・
なんで・・・涙が止まらないんだろう・・・
ああ、そうか・・・
私、禎憲さんのことが好きなんだ。
馬鹿だなぁ
今頃きずいても遅いのに・・・

素敵な人の笑顔が見たいだけとか
優しくしてくれるから
なんて・・・

そんなの言い訳でしかなかった。
禎憲さんの事がすきだから、
側に居たかったのに・・・
禎憲さんの事がすきだから、
協力したかったのに・・・

でも彼女達の言う通り、禎憲さんの隣には、私よりユリさんの方が相応しい。
だから
あの二人の言葉に傷ついてたんだ…

もう忘れよう…
もともと、私なんかには手の届かない人なんだから
後、半月有るけど、お金も少しは貯まったし、剛力家を出よう。
出れば終わる。
離れてしまえば、きっと忘れられる。




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