彼のゴール、わたしの答え

そう告げると、わかったとも、わからないともいわず、彼は黙々とパスタを食べだした。
わたしも、昼休みがあと十分しかないことに気がついた。

二人で慌てて食べ終えて、慌てて帰社する。
言葉少なに各自の席に戻り、仕事を再開した。

これでよかったのだ。
本当は、養育里親の件はそうすぐには決まらない。手続きは進めているけれど、単身者にはいくつかのハードルがあるのだ。
当面、わたしはこれからもおひとりさまで、その人生を謳歌していく。

今が寂しいと思うこともない。
友達はいて、趣味もあって、たまにこうしてエッセンス的にときめいたりできれば充分だ。
強がっている訳じゃない。諦めとも違う。
わたしは、今の自分をすごく気に入ってる。

好きな人と恋愛して結婚し家族を増やすことがゴールみたいに思えた時期もあったけど、ゴールは他にもあるって気がついてからは、後ろめたさから解放されて、心が自由になれた。

彼のことは、うれしい思い出として大切にしまっておこう。



すでに何人もいる後輩たちは優秀な子が多い。
わたしは細々任せるのが苦手なので、まるごと任せて、困ったら頼ってねということにしている。ハードかなと思うものも、案外みんなサクサクやっていくから、最近の子はすごいなーと眺めているばかり。余裕がなさそうに見えたら、適当に仕事を引き取ったりもしているけれど、自分が二十代の頃には考えられない。
結果、残業することが減った。

昼休みの戻りがバタバタしたので、午後はなんとなく落ち着かなかったが、優秀な後輩たちのお陰で、定時で帰れそうだ。
入力作業が一段落したので、伸びをしながらぼんやり周りを見回す。
あっそうだ。たまにはお菓子とか買ってこようかな。
思い立って財布を手に席をたった。


ビル内のコンビニでお菓子を買い込み、事務所に戻る。何かかごにでも入れようかと給湯室に向かうと、ちょっと言い争うような声が聞こえた。

「でも、先輩ばかりずるいです。わたしたちに仕事押し付けて、自分は定時で帰ってるんですよ?」

「押し付けてはいないだろ。無理な時は言えって言われてるんじゃないのか?」

この声は、後輩と、彼だ。
つい足が止まる。
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