彼のゴール、わたしの答え
「言われてたとして、言えると思いますか? 手一杯なのでできませんとか、キツいので手伝ってくださいとか、相手は先輩ですよ?」
「それに、手伝ってもらったらもらったで、いいとこ取りされちゃうから……」
「え? どういうこと?」
「わたしがどうしても残れない日に、先輩に資料を頼んだんです。最後のちょっとやってくれただけなのに、ご丁寧に提出までしてくれて、ねー」
「何が悪いんだ?」
「その資料、会議で好評で、部長直々にお褒めの言葉をいただいたんだそうです。先輩が」
「作った本人じゃないのに」
「ねー」
彼女らの言う先輩は、わたしのことだ。
はぁ……。
これ以上聞いてもイヤな気分になるだけなので、デスクに戻った。
後輩の資料は、参照データが間違っていた。グラフと数値的根拠がまとめられてはいたが見やすくはなっておらず、結局一からやり直しが必要だったのだ。
翌朝の会議に必要なものだったので、彼女の確認をとらず提出したが、まぁ、あの話だと良くなかったのかもしれない。
実際わたしも、翌日参照資料が間違っていたとは伝えたが、丸ごと直したとはさすがに言えなかったのだから、後ろめたかったんだろう。
はぁ……。
あんな風に思われていたとは。
ため息ばかりついていたら、隣の席の同僚にチラッと見られた。
「あ、そうだ、さっき買ってきたの。みんなでお菓子休憩しよう」
「あっ、ありがとうございまーす」
場の空気を読んだり、調整するのは苦手。
人の気持ちを推し量れないタイプだから、率直な人の方が楽。
彼が語っていた、誰にでも同じ対応をする、というのは、推し量れないわたしの苦肉の策みたいなものだ。
それで押し通していれば、あいつはそういうやつ、と思ってもらえる。
給湯室で騒いでいた後輩たちが戻ってきた。チラッとこちらを見られたような気もするが、気にしても仕方ない。お菓子に誘ったら、表面上は喜んでくれている。
はぁ。
定時少し過ぎた頃、急ぎの業務もないので片付けをして帰ることにした。
後輩たちに声をかけることもできるが、急に親切心を出しても違和感ありまくりだ。
「お疲れさまでーす」
誰にともなく挨拶して事務所を出ると、彼と鉢合わせた。
「お疲れさまです」
「今帰り?」
「はい」
「ちょっと待ってて、俺も出る」
「はい?」
「待ってろよ」
言い残し、入れ替わりで事務所に入っていった。