彼のゴール、わたしの答え
ずいぶんうれしそうである。
「なに?」
語尾に音符がついていそうだ。
「うれしそうだね」
「そりゃ、好きなやつと一緒に過ごせたらうれしいでしょ」
「あっそ」
窓の外を見ると繁華街のきらびやかな街並み。
そういえばこの通りをタクシーで通ったことなんてなかったな。いつも歩いている道を外から見ると、けっこうキレイなものなんだ。
唐突に映画のワンシーンが思いだされた。
頭がいいけど冴えない主人公がファッション誌の編集になり変化していく映画。おしゃれな服を着て、タクシーから街並みを眺めるシーンがなんだかとても印象的だった。
「どうした?」
黙りこんで外を見ているわたしが心配になったのか、彼が話しかけてきた。
「別に、外がきれいだなって」
「なんか、そういう映画なかったっけ。なんか主人公がリムジンとかからパリの街並みを眺めるシーンがあるやつ」
きっと同じ映画を思いだしている。
「そんなの、たくさんあるんじゃない?」
でもそうだと認めたくなくて、ふんわりとした返事をした。
その主人公は、ファッション業界のきらびやかな生活を捨て、最後には夢を貫いていた。
わたしは今の生活を捨てるほどの夢はない。
ぼんやりしているうちに病院についてしまった。今日は定時きっかりに出たから、今は夜六時。最終の時間に予約をしていたらしい。スムーズに受付され、二人で待合室のベンチに座った。
不妊治療専門のクリニックで、妊婦さんはおらず、意外に男性もちはほらいる。ただ確かに。男性一人はない。不妊治療で負担を強いられるのは、圧倒的に女性側ってことか。
「あのさ、今さらなんだけど、婦人科じゃなくても、泌尿器科に行けばよかったんじゃない?」
「えっ?」
「男性が一人で検査する場合は、泌尿器科だよね……」
「……え、そうなの?」
「うん、そうだね」
頭を抱えているが、自業自得だね。横目で見て放っておくことにした。