彼のゴール、わたしの答え
「検査をご希望と伺いましたが、妊娠を希望されているということですかね。ご結婚の予定は?」
「ありません」
「はやいうちに」
やってきた看護師さんに同時に言って、顔を見合わす。
「ありません」
視線をそらさずに再び言い、看護師さんに顔を向ける。戸惑わせて、ごめん。
「えぇと、ブライダルチェックでしたらお二人ともされてはと思いますが、あー、え? 子宮の摘出されてるんですね。卵巣は残っていらっしゃいますか?」
「片方は。ただ妊娠は希望していません」
「でしたら、今日の検査はどういった……」
「彼はパートナーではありません。彼の精子が元気で妊娠させやすいものだと検査で出していただければ、わたしのことも諦めてくれると思うので、よろしくお願いいたします」
流れるように伝えると、とても困った顔をされた。
「えーと、とりあえず精子検査だけで良いということですね。診察の同席はできませんので、待合室でお待ちいただけますか?」
そう。わたしは診察室にも入れない。つまりこの病院には用が無い。なのに、連れ出されている。
少しして呼ばれた彼の背中を眺めていると、サッと振り返ってウインクされた。うざい。
診察後、おそらく採精に向かうときも、ウインクされた。
わたしはもう、帰ってもいいだろうか。
何度帰ろうかと思ったが、迷っているうちに彼が戻ってきた。
「一時間くらいで結果が出るってさ」
「わたし、帰っていいかな」
「ここまできたんだから、付き合えよ」
「おなかも空いたし」
「おごるから。八時には終わるって。な?」
「じゃあ、せめて外にいていい? さすがにここにずっといるのはきつい」
そのくらいは、わかってほしい。
わたしは自分の意思とは離れたところで妊娠を諦めざるを得なかった。ここにいる人は、まだ諦めてない人たちだ。待っている間、漏れ聞こえる周りの会話や、院内の掲示物が、わたしを場違いな存在だと主張している気がした。
「そうか……ごめん、気づかなくて……」
わたしの言外の意図を感じてくれたみたいだ。
「向かいのカフェにいるから」
「俺も行く。外出てていいっていわれたし」