彼のゴール、わたしの答え
悪いやつじゃない。仕事でずっと一緒にやってきたから、それはわかってる。今回のはまぁ、舞い上がっていたんだろうとも思う。
「これでいい?」
わたしが席を確保している内に、彼が飲み物を買ってきてくれた。
「あ……、ありがとう」
コーヒーが苦手なのだが、買ってくれたのをいらないとはいえない。
リクエストしとけばよかったな。
「コーヒー苦手だったろ。それはロイヤルミルクティー」
「え?」
苦手って、話したっけ。
「なんでって顔してるな。こっちはお前のこと長いこと好きなの。よく観察してんだよ」
へー。なんていうか、照れる。一方でわたしは彼のことをあまり知らなくて、申し訳ない気持ちになる。
「ありがとな。付き合ってくれて。悪かったよ。お前にとったら、居づらい場所だったのに」
「婦人科自体はたぶん、その辺の女性よりはよっぽど通ってるんだけどね」
彼がビックリしたように目を見開いてこちらを見てきた。
「卵巣片方しかないし、ホルモンバランスが崩れるんだよ」
だから、幸せそうな妊婦さんを見たり、妊活のポスターを見たり、不妊治療の人を見かけるのははじめてじゃない。
つらかったのはきっと、彼が前向きにあの場にいたからだ。
悩みに悩んでたどり着いた答えを、あの場で、揺るがそうとされたから、つらくなったんだ。
「何で検査しようと思ったわけ」
「今日の昼、さ。何も言い返せなかったのが悔しくて。結婚すれば周りから子どもの話は絶対出るし、その時お前に理由を全部押し付けたくないし。そういうこと考えてなかったなーって」
「押し付けることになる答えが出るかもしれないじゃん」
「お? 結婚する気になった?」
「違います。言葉のあやです」
プイと横を向き、窓の外を眺めた。たくさんの人が行き交うのに、ガラスに写った自分の顔がぼんやり見える。
「世の中にはさ、結婚しても子どもを持てなかったり、持たないと決めてる人たちもたくさんいるだろ。俺は一応、そのどれもを選べるはずだけど、どうなるかはわからない。お前じゃないやつと結婚することになったとしても、相手も妊娠できる人だったとしても、子どもを持つっていう選択を取らないかもしれない」