無愛想な同期の甘やかな恋情
そのまま生え際からくしゃっと握って、「はあ」と声に出して溜め息をつく。


「菌の培養してるとこなのに。死んだらどうしてくれる」


返してくる言葉には、研究の邪魔をするなというニュアンスが、憚ることなく表れているけれど。


「それは、菌より私を選んでくれたってこと?」


彼が全面陥落したのを確信して、私はふふっと声を漏らした。


「……お前じゃない。ジェラート」


穂高君は、癖のない素直な髪が乱れるのも気にせず、忌々しげにくしゃくしゃと掻き回す。
でもすぐに、切れ長で涼やかな目で私をちらりと一瞥して、ひょいと肩を竦めた。


「事務所で待ってろ。作業途中だから、終えたら行く」

「はーい」


先にスタスタ歩いていく彼を追って、ラボに踏み出した。
そのまま奥の研究室に向かう彼を見送って、私は途中で通路を折れる。


事務所は開放的で、ドアはいつも開いている。
ひょこっと顔を覗かせると、何人かの事務員がデスクで仕事中だった。


「こんにちは」


私に気付いた顔馴染みの事務員、糸山さんが、「あ」と立ち上がる。


「冴島さん、いらっしゃい。穂高さんに、ご用ですか?」

「うん。ここで待ってろって。お邪魔していい?」

「どうぞどうぞ。あ、お茶淹れますね」


仕事を中断して、事務所の奥にある簡易的な休憩スペースに行こうとする彼女を、私は「いい、いい」と言って止めた。
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