無愛想な同期の甘やかな恋情
どんなにつれなかろうが、私は彼の『相棒』になって三年経つのだ。
その間に、学習した。


「冷たいな~。穂高君の好きなジェラートショップで、お土産買ってきたのに」


溜め息混じりに、ちょっとだけ芝居がかって嘆いてみると、白衣の広い背中がピタリと立ち止まった。
それを見て、私は心の中で『やった!』とほくそ笑む。


「ジメジメむしむししたこの季節だから、冷たい物って美味しいよね~? 穂高君が飛びつきそうな、新作もあるんだけどなあ……」


プライベートを知るほどの接点は、私たちにはほとんどない。
以前は何度か『同期だし、たまには二人でヒット祝いしない?』と誘ってみたけど、いつもあっさり断られた。
穂高君は、チームとして行う、公式の決起会や祝賀会にしか姿を見せない。
そういう席でも、隣同士で座ることはほとんどない。


同期なのに完全に一線置かれている私が、穂高君の『好物』と『ショップ』を知り得た情報源は、もちろん、彼の同僚たち、他の研究員だ。


「ジェラート?」


穂高君が、わりと端整で綺麗な顔を不審げに歪ませ、振り返る。
形のいい眉がピクリと動くのを見て、私は大きな紙袋を掲げてみせる。


「そう。好きでしょ?」


にっこり笑って首を傾げてみせると、穂高君は焦げ茶色のサラサラの前髪を、やや乱暴に掻き上げた。
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