無愛想な同期の甘やかな恋情
「え?」


なにか難しい言葉を聞いた気がして、私は目線を上げる。
彼は「はあ」と声に出して息を吐くと、ネクタイを掴む私の手に、そっと手をかけた。
そこに目を伏せ、私の指を一本ずつ開かせる。


それには私も抵抗せず、大人しく彼のネクタイを離した。
穂高君はふうっと口をすぼめて息を吐いてから、再び私の前に座り込んだ。
立てた片膝に肘を預け、頬杖をつく。


「同じチームの仲間として? 同期として?」


斜めの視線を私に向けて、探り入れてくる。


「それとも……男と女?」

「ほ、穂高君?」


私は反射的にビクッとして、彼から逃げるように背を反らした。


「俺は……」


穂高君も、私から顔を背けて小さく唇を動かす。


「冴島が好きなのは間中さんだって、知ってる」


この時間になっても、じっとりと暑い夏の夜の空気に消え入る、穂高君の声。
目の前で、彼の男らしい喉仏が一度上下するのを見た。


「俺は、不器用だから。冴島が言う『仲良く』の匙加減、調節なんかしてやれない」

「え……?」

「『運命』だの、『仲良くして』だの言われたら、お前が誰を好きだろうが、遠慮してやれなくなるけど」


穂高君の薄い唇がキュッと結ばれるのを、私は目の前でぼんやりと見ていた。
私がなにも言えなかったのは、彼が先を続けるのを、待っていたからかもしれない。
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