無愛想な同期の甘やかな恋情
穂高君がメインで使っている研究室は、一階の一番奥まった場所にある。
この時間、他の研究室もまだ煌々と電気が点いていて、たくさんの研究員が実験に明け暮れている。


「どうぞ」


穂高君がスライド式のドアを開けて、私を中に通してくれた。


「ありがとう、お邪魔します」


彼の前を過ぎて、研究室に足を踏み出す。
途端に、よくわからない薬品の匂いが鼻をくすぐった。
研究室特有の空気だ。
特に不快感はない。


機械に囲まれた迷路みたいな通路を通り過ぎると、私の視界いっぱいに、高校の化学室のような光景が広がった。
実験機器は、最先端で最高峰のものが揃っている。
なにに使うか想像もつかない大きな機械もあって、かなり広い研究室が手狭に感じる。


室内の真ん中に、実験用の黒いテーブルが置かれている。
穂高君の研究室には、今までも何度も足を運んだことがあるけど、彼はいつも私をこのテーブルに誘う。


今、テーブルの上には、英字や数字がびっしり書き込まれた資料の束と、シャーレが五つ並んでいる。
シャーレには、ちょっと粘質な絵の具状の紅が、ごく少量入っている。


少しずつ色味が異なるピンクベージュで、グラデーションを創り上げるように並んでいる。
それはもちろん、私が頼んだ口紅の調整結果だ。
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