一目惚れの彼女は人の妻
「さっきの彼は、宏美ちゃんの知り合い?」

 ホームセンターからの帰り道、充さんがそう聞いて来た。

"とんでもないです。ただの痴漢です"

 と答えようかと思ったんだけど、充さんは私が痴漢された事には気付いてなさそうで、それを言うのは恥ずかしいし、被害に遭ったのに、うやむやにした事を責められたくないしで、

「はい。ほんの少しですけど」

 と、曖昧な返事をしてしまった。

「そう? でも、いいのかな。彼、誤解したと思うよ?」

「いいんです。わざとそうしたので」

「そうか。何か複雑な事情があるようだね。宏美ちゃんと、あのイケメン君には」

「そんな、複雑だなんて……」

 複雑ではないと思う。たぶん。さっき、私は咄嗟にこう考えたんだ。

 あの"爽やかイケメン彼女持ち痴漢男"は、家が近所らしく、ホームセンターとかで再び出くわす可能性があると思う。

 略して痴漢男は、私のEカップの胸に狙いを付けたっぽいから、再び触って来るかもしれない。あるいは付きまとわれて、もっと酷い事をされるかもしれない。

 それを予防する手段として、ちょうど一緒にいた、痴漢男より遥かにたくましい体をした充さんを、私の夫と思わせておけば、都合が良いと思ったんだ。いわば、私のボディーガードとして。

 一瞬でそんな事を考え、行動した私って、我ながらすごいなと思う。
< 13 / 100 >

この作品をシェア

pagetop