一目惚れの彼女は人の妻
「人妻!?」

 加奈子は、素っ頓狂な声を張り上げた。個室で良かったわ。

「なんで、そんな事になってるのよ?」

「それはね、俊君と地元のホームセンターで遭って、いきなり胸を触られた時、怖いと思ったのよ。痴漢に目を付けられて、まとわり付かれたらどうしようって。で、咄嗟に思い付いたの。一緒にいた篠崎課長と夫婦のフリをしようって。そうすれば、痴漢、っていうか俊君に、まとわり付かれないだろうって」

「姪っ子ちゃんもいたんでしょ?」

「うん、もちろん」

「と言う事は、俊君にとって宏美は、子持ちの人妻って事よね?」

「たぶん」

「なんでそれを早く言わないのよ!」

 加奈子に怒られてしまった。

「だって、私自身、すっかり忘れてたんだもん」

 私はシュンとして、体を小さくしたのだけど……

「でも、これではっきりしたわね?」

 と加奈子は言った。なぜかドヤ顔で。

「あの、何がはっきりしたのでしょうか?」

「解らない?」

「ぜんぜん」

「俊君が宏美に触らなかったのは、宏美は人妻だから、遠慮したんだと思う。あるいは、自重?」

「ああ、そういう事かあ」

「納得するのはまだ早いわ」

「え?」

「という事は、俊君は痴漢なんかじゃない、って事でしょ? 人妻に遠慮する痴漢っていると思う?」
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