一目惚れの彼女は人の妻
「なんでよ?」

「痴漢の気持ちはわかんないけどさ、基本、女に触るのは好きでしょ? 痴漢に限らないと思うけど。相手が嫌がるかで満足度は違うとしてもね」

 なるほど……確かに。だったら、どうしてなの? どうして俊君は触ってくれなかったんだろう。

「何かが抜けてる気がする」

 加奈子は、鯖を頬張りながらそう言った。

「味が薄いの?」

「はあ? 違うわよ。情報が足りない気がするって事」

 そっちかあ。

「宏美、何か言い足りない事ない?」

「昨日の事は全部言ったよ」

 俊君に、胸を2回触られた事以外は。

「もっと前でもいいわ。あんた自身、忘れてた事とかさ……」

 忘れた事を思い出せって、加奈子も無理言うなあ、と思ったのだけど、

「あっ」

「何? 何か思い出した?」

「う、うん。私、俊君には人妻って事になってた」

 私はそう言い、チロッと舌を出した。今の今まで、すっかり忘れていたんだもん。
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