オフィスの野獣
陽が沈んですっかり人がいなくなったオフィスに、ポツンと取り残されてしまった。
あの場ではどうすることもできないから、とぼとぼとここへ引き返した。静かに立ち去ったつもりだけど、気づかれていたかもしれない。
前野君が言ってた通り。遊ばれるだけ。
西城斎は、噂通りのロクでもない遊び人だ。
薄暗い室内を見回して彼のデスクを探すと、荷物はまだそこに残っていた。
しばらくすると、思っていた通り西城斎が一人で部屋に戻ってくる。この時間までまだ人が残っているとは思わなかったようで、私の姿を見て言葉を探っている様子だ。
そんな彼に構わず、私は静かに近づいて彼の綺麗な顔に二度目の平打ちをかました。
一度目より気合を入れた平打ちを食らい、痺れる頰を押さえている。私から見てもそいつは綺麗な顔をしていると思う。
「いって……どうしたの、急に」
「モテる奴はいいわね、男も女も取っ替え引っ替え。ほんと、クズ」
たぶん、本人もよくわかっていることを吐き出したのだと思う。
そして合点がいったように、西城斎は穏やかな表情を崩さないまま言った。
「そんなこと、前から知ってるじゃん。どうしてそんなに怒ってるの?」
自分でもどうしてこんなに腹が立っているかなんて、うまく言葉にできない。
でもやっぱりはぐらかされたあの夜のことが、ずっと胸に引っかかっている。