千年愛歌
しかし、保健室は電気がついておらず、先生はどこかに行っているようだ。とりあえず、ベッドの上にかぐやさんを寝かせ、先生を待つことにした。

窓の外には、大きな桜の木が見える。春になればきれいな花が見えるだろう。

外は、いつから降り始めたのか土砂降りの雨だ。

「花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」

ポツリとかぐやさんが呟く。この歌は、聞いたことがあるし、作者も調べなくても知っている。

「それって小野小町の歌?たしか、三代美女の一人だったよね」

俺がそう言うと、かぐやさんは「……そうです」と優しく微笑んだ。

「……この歌は、とても切ない歌なんです。でも、今は暗い気持ちに浸りたいと思っているんです…」

かぐやさんは悲しそうな顔になり、俺から目をそらす。

「どうして?」

訊かずにはいられない。そんな顔をしてほしくなかったから。

「倒れてしまって、沖田くんにまで迷惑をかけてしまいました…。本当に、ごめんなさい」

俺は、すぐに「そんなことない!」と答えて笑顔を見せる。

「俺、かぐやさんとこうしていられてすごく嬉しい!本当に嬉しい!」
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