千年愛歌
俺は挨拶を返してもらって安心して、会話をスタートさせることができた。

「夏休みの間さ、百人一首を勉強したよ!」

すると、かぐやさんは頰を赤くしながら、「本当ですか!?」と喜ぶ。そんな顔はクラスメートたちは初めて見るので、驚いた顔をしていた。

「うん!ちょっと気になってさ…。百人一首って恋の歌が多いんだね!」

そう俺が言うと、「そうですね…」とかぐやさんは少し悲しそうになる。どうしたんだろう。

しかしすぐに微笑みながら、「沖田くんの好きな歌は何ですか?」と訊いてきた。

俺はかぐやさんの悲しげな顔が気になったものの、頭に一番残った歌を口にする。

「君がため 春の野に出でて 若菜つむ わが衣手に 雪は降りつつ」

とても季節外れだが、この歌が自分の心に一番残った歌だった。かぐやさんは、また切なげな目を俺に向ける。

「その歌の意味は知っていますか?」

俺は「えっと…」と口ごもる。一生懸命勉強したと言ったものの、意味までは目を通していなかった。

「ごめん、わかんないや」

素直にそう言うと、かぐやさんはすらすらと意味を教えてくれた。

「あなたに差し上げるために春の野に出て若菜を摘む私の袖には、雪がしきりに降りかかっていたのでしたよ。という意味です」
< 8 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop