バレンタイン・ストーリーズ
「いや、知ってる、それは知ってるけど! ていうか、青磁のほうこそ、今日バレンタインって知ってたんだ!?」
「そんなん知ってるわ! なに、バカにしてんの?」
「いや、バカにしてるとかじゃなくて」

私はぶんぶん首を横に振ってから、声を落として訊ねた。

「それと、この絵に、なんか関係があるの?」

青磁は意表を突かれたように目を丸くしてから、なぜか少し気まずそうに少し目を逸らした。

「……お前、分からねえのかよ……」

えっ? と声をあげた私を見て、青磁がその真っ白に輝く髪をくしゃくしゃとかき回す。

「えっ、えっ、分からないって、何が? どういうこと?」
「マジかよ……まさか説明することになるとは思ってなかった」

青磁が珍しく、困ったように眉を下げている。

レアな表情に驚いていると、彼はちらりと目をあげて、深く息を吐いて言った。

「前に英語の長文読解で読んだだろ。海外のバレンタインは、男が女に花束やったりするんだって」
「あー、なんかあったかも」
「そういうことだよ」

青磁は、ふんっ、と効果音のつきそうな顔で前に立てたキャンバスに向き直った。

「え、そういうことって?」
「あとは自分で考えろ!」

彼はそれきり顔を背けたまま、かたくなにこちらを向いてくれなかった。
その耳が、なんとなくいつもより赤い…ような。

それに気がついた私の方も妙に気恥ずかしくなり、慌ててうつむく。
そして、長文読解で読んだ内容を思い出してみた。

たしか、海外のバレンタインでは、女の子が男の子に告白する日とは限らず、男性が恋人に愛を伝えるためにバラの花をあげるという話だった。

ということは、青磁は……そういうこと?

じわじわと頬が熱くなってくる。
顔を上げられなくて、もらったバラの絵をまじまじと凝視した。

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