バレンタイン・ストーリーズ
「なんだと? じゃあなぜ俺には作らん。手抜きか。なぜだ。どうして今までの男には作ったのに、この俺には作らないんだ?」

…えっ。これって、もしかして…嫉妬? あの蓮見が!?
まさかの言葉に嬉しくなりかけたところへ、続く言葉が私を直撃した。

「間違いなく俺がお前の歴代最高の男だろうが。これまでお前が付き合ってきたどんな男より俺が優れてるだろ。俺にこそお前の全精力を注ぎ込んでしかるべきだ。この俺と付き合ってることへの謝意を示せよ」
「………」
「おいこら、なんで黙ってるんだよ」

唖然としている私の顔を、一歩近づいた蓮見が覗きこんでくる。
突然の接近に、私は慌ててトートバッグを後ろ手に持ち直し、一歩下がった。
直後に、不自然だったかと気がついたけれど、時すでに遅し。
無駄に背の高い蓮見の視線は、私の頭上を通り越して、しっかりと私の背中のトートバッグに注がれていた。

「ちょっ、ちょっと、見ないでよ、変態!」
「残念。もう見えた」

蓮見がにやりと笑う。

「それ、俺のだろ」

蓮見が指差した先にあるのは、バッグの中から顔を覗かせているリボン付きの小箱。
バレンタインの贈り物は買うことにしたけれど、最後まで迷った末に、結局手作りのものも用意していたのだ。
でも、仕事をしている間に「やっぱりやめておこう」という結論に至ったから、渡すつもりはなかったのに。見つかってしまった。

「……まあ、いちおう、ね」

蓮見相手に言い逃れできるわけもなく、私は諦めて小箱を取り出した。

「ったく、最初から素直にこっち出しとけばいいのに、清水のくせにもったいつけやがって」
「それは……だって……あんた手作りとか嫌いでしょ。重いとか思ってるでしょ?」
「俺は一度でもそんなことを言ったか? 言ってないだろ。勝手に考えて勝手に決めつけるなよ」
「だって~……」
「はいはい、分かったから、早く渡せよ」

蓮見が手を差し出してきたので、私はしぶしぶ彼の手のひらに箱をのせた。

< 4 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop