涙の数より空(キミ)が笑ってくれるなら。
「いただきます」
ひとり空き教室に座り、両手を合わせる。
いい匂いだと思っていたらグゥとお腹が鳴って、恥ずかしくなった。
――りょうたに気遣わせちゃったかな
わたしのお腹がうるさいことは知っていただろうし、それでも毎日お昼ごはんを食べていないことは口には出していないはずだ。でも手ぶらだったら……そりゃ気づくか。ううん、りょうただったら、口に出さなくても……
「はいっじゃぁ!」
「手を合わせてください!」
遠くから陽気な声が響いてきて顔を上げる。
何枚か壁を挟んだ向こう、りょうたの声だ。
「「「いただきまぁーすっ」」」
子供の合唱のような声が響く。
「ふはっ」
幼稚園かよ。
思わず笑った。
バカバカしくて微笑ましい。平和だ。
少し食欲が湧いてきて、「いただきます」と小さく言った。
ネギが散りばめられたフワフワの卵を、スプーンですくって口に入れた。
ネギはあまり好きではないが、今はどうでもいい。
温かくて、ふにゃふにゃしてて、
「……っ」
優しい味。
「ぐすっ……っ、……おいしい」
おいしい。
もし味がしなくても、苦くても、不味くても、きっと今は涙が出るほどおいしいと思う。